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第9章 悪い癖
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それから3日後、里親を希望する夫婦がアパートにやって来た。

男の人は辰と同い年という事もあり、それなりの年齢に見える。
女の人の年齢はわからないが、夫である男性と近い年に見えた。

しかし、共にいかにも金持ちらしい身なりをしている。
男性は高そうなスーツにちょび髭を生やし、髪は整髪料で綺麗に固めてあって、女性も品の良いワンピースにカーディガン、首には見るからに高価なペンダント、耳にはイヤリング、指には指輪。
しかも、2人は自家用車でやって来た。

「この子がすみれだ」

辰はすみれを抱いて、玄関に立つ2人に見せた。

「あなた、なんて可愛らしい子なの、ね?」

妻の方はひと目見て顔を綻ばせ、夫の腕に触れて同意を求める。

「ああ、そうだな、綺麗な顔立ちをしている、話では亡くなった母親は元士族だったとか?」

夫もすみれを見て笑顔を見せたが、妻よりは落ち着いた感じで、辰に質問をしてきた。

「ああ、そうだ」

辰は愛想良くするでもなく、淡々と答える。

「父親は……、と言っても、聞かない方がよさそうだな」

夫は父親について触れたが、百合子が湯女だった事は聞いている。
愚問だと思ったのか、言いかけて言葉を詰まらせたが、辰は目を伏せてなにも答えなかった。

「あなた、私、すみれちゃんと暮らしたい、こんな可愛らしい赤ちゃん、滅多にいないわよ」

妻はすみれの事をすっかり気に入ったらしく、興奮気味に夫に頼み込んだ。

「そうだな、母親がしっかりした素性なら安心だ、他をいくつか当たってみたが、どれも今ひとつピンと来ない、柏木さん、すみれちゃんを引き取りたいんだが、いいかね?」

夫は百合子の素性に触れて愚痴めいた事を言ったが、子供を養子に出す親というのは、大抵貧しい農家か漁民だ。
自分の御眼鏡に叶う子供は見つからなかったらしい。







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