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第9章 悪い癖
「そんじゃ、どうぞ、よっと……、まだ2ヶ月ちょいだ、首が座ってねぇ、そこら辺は気をつけた方がいい」

辰は注意を促しながら妻にすみれを渡した。

「あ、はい……、あら、よく眠ってる、ほんとに可愛い」

妻は大事そうに抱きかかえると、すみれの顔を真上から覗き込み、スヤスヤと眠る可愛らしい寝顔を見て微笑んだ。

「柏木さん、これは手数料と言っていいかわかりませんが、世話して貰った礼です」

夫は内ポケットから封書を取り出して辰に差し出した。
厚みのある封書にはまとまった金が入っている。

「そりゃどうも、有り難く頂きやす」

辰は軽く頭を下げて封書を受け取った。

「あのそれで……柏木さん、早川組の親分さんがよくできた親分なのは承知してます、ただ……こんな事を言ったらお気を悪くされるかもしれませんが、お互い気持ちよくやりたい、このすみれは今日から我が子として育てる、後腐れのないようにお願いします」

夫は言葉を選んで言ったが、早川組については予め調べていた。
その上でこの話に乗ったのだが、相手がヤクザだけに念押しをしたのだ。

「ああ、そんな姑息な真似はしねぇよ、つまらねぇ事をしでかして下手を打ったら、親父に叱られちまう」

辰もその位は安易に想像がつく。
夫を安心させるように大袈裟に言った。

「それなら安心です、いい縁に巡り会えて、本当に良かった」

「ああ、こっちもだ、お宅らみてぇな夫婦なら、すみれもきっと幸せになる」

2人は笑みを浮かべて互いに納得し合ったので、すみれは今日から新たな両親の元で暮らす事になる。

「それじゃあ、私達はこれで失礼させて頂きます、すみれを早く我が家に連れて帰りたい、実はね、赤ん坊用品は用意してるんです、気が早いと思ったんですが、何故か気が急いて……、しかし無駄にならなくてよかった、柏木さん、本日は誠にありがとうございました」

夫は嬉しげに話したが、夫も妻と同様に絢音をいたく気に入ったようだ。
辰に挨拶すると、妻もそれに倣って一緒に頭を下げた。

「ああ、可愛がってやってくれ」

辰は我が子の顔をチラ見して言った。

「あ、あの……、すみません!」







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