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第10章 クズの半生反省


「っと……、うんしょっと」

小さな手を両方使って力一杯絞ったが、今絞っているのは辰のシャツだ。
そもそも、大きな衣類は全部辰の物である。

その時、辰が不意に戻ってきた。
けど、絢音が見当たらない。
辰は多分洗濯しているんだと思い、こっそり覗き見してやろうと思った。
風呂場の傍に行くと、絢音は背中を向けていたのでちょうどいい。
これなら気づかれずに済む。

「うーん、うんしょ……」

辰が息を殺してそーっと見ていると、絢音は小柄な体で力一杯洗濯物を絞っていた。
健気な姿に思わず笑みが零れたが、放ってはおけなくなった。

「絢音、俺がやる」

「わっ……」

急に声をかけられ、絢音はビクッと肩を震わせたが、辰はズボンの裾とシャツの袖を捲り、風呂場に入って行く。

「辰さん、帰ってたんだ、驚いた……」

絢音は唖然とした顔で振り向き、辰を見上げて言った。

「ほら、貸してみな、お前は出てりゃいい、後は絞るわ」

辰は洗濯物なんかやった事がなく、絢音が来る前はその辺の女に手間賃を払ってやらせていた。
なのに、絢音が一生懸命やるのを見たら、つい手伝ってやりたくなった。

「あ、でも……」

けれど、絢音は自分の役目だと思っている。
辰にやって貰うのは悪いと思い、しゃがみ込んで動かずにいた。

「いーから代われ、たまにゃ手伝ってやる」

しかし、辰は退くように言う。
絢音が来た時に出した条件……『家事をやる代わりに養ってやる』という約束は、いつしか無効になっていた。

「あの、はい……、じゃあ」

そこまで言われたら退くしかない。
絢音は立ち上がって風呂場から出た。
濡れた足を手ぬぐいで拭いていると、辰はしゃがみ込んで洗濯物を絞っている。
辰はたまたま思いついてやった事だったが、絢音からしたら、相当優しい男に思えた。
絢音はこれまでにとんでもない行為を見せられてきたが、衣食住全てを満たしてくれる辰は、絢音にとって救いの神だった。





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