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第11章 悲しい性
「ふっ……、なるほどな」

ヤスは間違いないと思い、納得してニヤリと笑ったが、それにしても……さっき見た実の父親の事が気になる。

「しかしよー、なあ辰……、お前金を渡しただろ、あの親父、また来るぞ、絢音ちゃんの前でこんな事を言うのはわりぃが、あの手の奴は味をしめたらしつけぇからな」

絢音に気を使い、ひとこと言い置いて言った。

「ああ、かもな……」

辰もそれは分かっていたが、腐っても絢音の父親だ。
ぶん殴るわけにはいかず、ああするより仕方がなかった。

絢音は正座して2人の話をじっと聞いていたが、申し訳なくて肩身が狭くなる思いがした。

「辰さん、私のせいで迷惑かけて……、ごめんなさい」

辰に向かって頭を下げて詫びた。

「やめろ、お前のせいじゃねぇ……、みな親を選んで産まれて来るわけじゃねぇからな」

絢音のせいだとか、辰がそんな風に思う筈がなかった。

「おお~、いい事を言うじゃねぇか、確かにそうだ、俺の親父も糞だったが、俺は男だからよ、ぶん殴って家を飛び出してやった、しかし……絢音ちゃんは当たり前に女だ、ぶん殴るってわけにゃいかねぇし……参ったな、たまにいるんだよな、売っぱらった娘をあてにしてくる親が……」

ヤスは感心した後で自分の事に触れ、絢音の場合と比較したが、実際にあった話を出して呆れ顔でボヤいた。

「ああ、だな……、俺も知ってる、街の遊廓で、遊女になった娘に金をせびりに来た親父がいた、若い衆がほっぽりだしてたわ、あのな、絢音……、俺が留守の時は鍵を開けるな、相手にしなきゃいい」

辰も似通った場面に遭遇した事があったが、絢音に向かって無視するように言った。

「まあ~、そうだな、まさか扉をぶち壊しゃしねぇだろ、絢音ちゃん、そうしな、辰に任せりゃいい、だってそうだろ?ここに来た時に辰に渡されたんだったら、辰は親も同然だ、親父が来ても相手にするな」

ヤスも辰に同調して絢音に念押しをする。

「はい……」

絢音は心中で、父親に絶縁状を突きつけていた。
だから特に言う事はなかったが、父親のせいで辰に迷惑をかける事にならないか、それが気がかりだった。



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