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第11章 悲しい性
「ま、そんなに気にするこたぁねぇ、ガキなら作りゃあいい、まっとうにくっついて、辰と2人で育てるんだ、俺らはこんな稼業だが、なにか困った事がありゃ仲間が手助けする、心配はねぇ、まぁーその前に親父に話さなきゃならねぇがな、姐さんなんか未だに絢音ちゃんの話をしてる、親子じゃねぇと知ったら……それなりにショックを受けるだろうが、そんなもんはたいした事じゃねぇ」

ヤスは2人が結婚するものだと思っている。
早々と子供の話をしたが、絢音は辰と契る約束はしたものの、そこから先の事はなにも話してない。

「はい……、ただ、まだそこまではわからないので」

辰の妻という立場に憧れる気持ちはある。

「そうなのか?あいつ、すぐ女に手ぇ出す癖に、肝心な事はきっちり言わねぇんだな、よし、俺が言ってやる」

ヤスは呆れ、苦笑いしながら言ってやると言ったが、絢音は焦って答えを出すつもりはなかった。

「あの、いいんです……、私はこのままで十分なので」

夫婦がいて子供がいるのはごく自然な家族の在り方だが、辰は自由奔放に生きてきた。
結婚を望むかどうかわからない。

「このままって……、どうしてだ?辰に惚れてるんだろ?」

ヤスは不思議に思った。

「はい……、私は今が幸せだから、我儘は言えません」

絢音は今でも十分満たされている。
これ以上望んだらバチが当たるような気がした。

「今が幸せなら、くっつきゃもっと幸せなんじゃねぇか?」

ヤスは箸を口に運びながら喋っていたが、話に夢中になるうちに、いつの間にか全部食べ終えていた。

「っと……、かもしれませんが、あの……、お湯が沸いたので」

絢音はヤスが食べ終えた事に気づき、逃げるような気持ちですっと立ち上がった。

炊事場に行ってコンロの火を消したら、不意にドアを叩く音がした。

「あ……」






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