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第11章 悲しい性
父親は酒は飲んでいないらしく普通に喋っているが、ヤスはあからさまに迷惑そうな顔をした。

「金と交換した娘になんの用がある、土下座して詫びでも言うつもりか?」

金が目当てなのは見え透いているからだ。

「いいえ、今更謝っても無駄だ、俺はただ顔が見たいだけです」

父親は親子の情をちらつかせて訴える。
絢音はこっそりと成り行きをうかがっていたが、それを聞いて黙っていられなくなった。

「帰ってください!」

玄関へ走って行き、父親に向かって叫んだ。

「絢音、そう拒絶するな、実の親子じゃないか、ほら、父さんは酒を飲んじゃいない、反省したんだ」

父親は笑顔で反省したと言う。

「なあ、あんた、絢音ちゃんは会いたくねぇっつってるんだ、辰から金を貰って味をしめたんだろうが、そう甘くはねぇぞ、おとなしく家に帰るのが身のためだぜ」

ヤスは怒鳴りはしなかったが、遠回しに脅した。

「それはそれは……ええ、わかってますよ、しかし旦那ぁ~、親子の情を断ち切るのはいくら旦那と言えども不可能だ、今日は諦めますが……また来ます、死んだ女房そっくりになった娘に会いに……」

父親は性懲りも無くまた来ると言って立ち去った。

「ヤスさん……すみません」

ドアが閉まると、絢音は頭を下げてヤスに詫びた。

「謝らなくていい、それより……やたら親子だ娘だと言ってるが、辰がいねぇもんだから諦めて帰ったんだろう、絢音ちゃん、今日は俺がいたからいいが、口車に乗せられちゃ駄目だ、絢音ちゃんと繋がりを持っていれば金に困る事はねぇ、だから……なんとかして取り入ろうとしてる、耳を貸したらろくな事はねぇ、ズルズルと金をせびられるだけだ」

ヤスはむしろ、絢音の事が心配になって注意した。

「それは……ないです」

父親と和解するつもりなどない。
早くこの温泉場から立ち去って貰いたかったが、絢音にはどうする事もできず、焦燥感に駆られていた。


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