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第11章 悲しい性
後日、また辰が出かけている時に父親が来たが、絢音は前と同じように弁当箱を置いていた。
父親は空の弁当箱を置き、代わりに新しいのを持ち帰った。

そんな事が何度かあった後、ある日の正午前、たまたま父親とヤスが出くわした。

「お前、また来たのか……、ん?なに持ってんだ」

ヤスは呆れ返って言ったが、父親が手になにか持っている事に気づいた。

「絢音が俺に弁当を作ってくれる、だから取りに来た」

父親はすれ違って立ち止まり、振り向かずに言った。

「え……弁当?」

ヤスは唖然として父親の方へ向いた。

「ああ、あの子は優しい子だ、俺は……駄目な父親だ、そんなのはとうに分かってる」

父親は力なく呟き、再び歩き出した。

「お、おい……」

ヤスは一体どういう事なのか聞こうと思った。

「俺は乞食だ、ほっといてくれ」

だが、父親は投げやりに言って階段を降り始めた。

「なんなんだ?」

ヤスは怪訝な顔をしてドアの前に歩いて行った。

「絢音ちゃん、俺だ、ヤスだ」

ドアを叩いて声をかけたが、足元に置かれた弁当箱に気づき、それを拾い上げた。

「あ、はい……、今開けます」

絢音はハッとして立ち上がり、返事を返して玄関に走って行った。

ドアを開けたらヤスが弁当箱を持って立っている。
父親は来たら必ずドアを叩いて声をかけるので、たった今ヤスと出くわしたのはわかった。

「っと~、この弁当箱だが……、とりあえず上がっていいか?」

ヤスは空の弁当箱を片手に持ち、困ったような顔をして聞いた。

「はい、どうぞ……」

絢音はいつか出くわすんじゃないかと思っていたので、動揺してはいなかった。

「どうぞ、座ってください……、ご飯用意しますね」

ヤスが何を言うかわからないが、とにかく、昼食を用意する事にした。




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