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第11章 悲しい性
◇◇◇

「ああ、わりぃな」

ヤスは弁当箱をわきに置き、ちゃぶ台を前にして座った。

絢音はテキパキと用意をしていき、ご飯におかず、汁物などを次々とちゃぶ台に運んだ。

「どうぞ、食べてください」

「へへっ……、ああ、んじゃ頂くとするか」

ヤスの目の前に美味しそうな料理が並び、ヤスはニヤケ顔で箸を握って食べ始めた。
絢音は少し離れた所に座っていたが、何気なくヤスを見てふと思った。
ヤスが温泉場にやって来て、もうしばらく経つ。
いつまでここに滞在出来るのか気になってきた。

「ヤスさん、ここにはいつまでいられるんですか?」

食事中に悪いとは思ったが、思い切って聞いてみた。

「ああ、最低ひと月って事にしてる、ちょいと遠いからよ、そう度々こられねぇ、辰が街へ戻った事で銀次の事が解決した、だから親父は骨休めを兼ねてゆっくりしてこいと言ってくれた」

ここが温泉場という事もあり、親分は気前よく送り出してくれたのだ。

「そうですか、よかった」

絢音は安堵して笑顔を見せる。

「絢音ちゃんは俺がいた方がいいのか?」

「はい」

「ははっ、そう言われると嬉しいな、けどよ、やっぱりアレか?父親の事があるから、不安なんだろ」

ヤスは照れ笑いを浮かべたが、絢音の気持ちは分かっている。

「あの……、その事なんですが、お弁当の事は辰さんには黙ってて貰いたいんです」

絢音は辰に余計な心配をかけたくなかった。

「ん、辰は別に怒りゃしねぇだろ、それによ、さっき見たらすっかり乞食に戻ってたが……、何故働こうとしねぇのか、こんな温泉場でも、風呂の掃除や食事の支度とか、やろうと思や働ける、住み込みも出来たりするからよ、てめぇが食う事くらいなんとかなる」

ヤスの言う事はもっともである。
けれど、絢音はその理由を誰よりも分かっていた。

「父さんはお酒に呑まれて……、なにもする気力がないんです、私は人から聞いたんですが、母さんが亡くなった後から働かなくなって……お酒を飲み始めたとか、祖父母もいたようですが、私が赤ん坊の時に次々亡くなって、父さんは仕方なく私を育てた、そこまではギリギリ生活出来たようだけど、私は幼い時から自然と家の事をやってました、父さんは本当に気紛れに働く程度で……後はお酒でした」








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