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第11章 悲しい性
「母親に相当惚れてたのかもな、それで自暴自棄になった、しかしよー、その母親に似た娘がいるって言うのに、何故そこで踏ん張れねぇのか、もし俺なら、絢音ちゃんみてぇな可愛い娘がいたら、母親がいなくたって、娘の為に頑張って働くと思う」

ヤスの言う事は全て正しい。
絢音だって、今でこそ父親が駄目な人間だと思っているが、家にいた時はいつか立ち直ってくれるんじゃないかと、淡い期待を抱いていた。
ただ……ヤスが言ったように、皆が皆そんな風に前向きになれればいいが、駄目な人間というやつはチラホラいる。
それが現実というやつだ。

「父さんは……もう無理だと思います、私は無視しようと思ってました、でも……お腹が空いたと言われて……、ほっといたら本当に死ぬかもしれないって、それでお弁当を思いついたんです、こんな事……みっともないって分かってます、私……情けなくて……、だけど……あんな風に乞食になっても、あの人は私の父親なんです、だから……」

絢音は弁当を置く理由を話したが、話しているうちに気持ちが昂り、つい涙ぐんでいた。

「あ……、いや、わりぃ……、責めるつもりはなかったんだ、そうだよな、どんな人間でも親は親だ、分かった、弁当の事は辰には言わねぇよ、父親の事もだ」

ヤスは絢音を見て焦った。
絢音は自分が思うよりも、ずっと複雑な気持ちを抱いている。
実の親子なんだから当たり前だ。
そう思い直し、なにか他の話題に変えようと思った。

「飯美味かったぜ、いっつも助かるわ、な?ほら、もうその話はやめだ、その服は辰が買ってくれたのか?よく似合ってる」

食事は喋りながらほぼ食べ終わっていた。
礼を言って絢音が着ているワンピースを褒めてみた。

「あ、はい……、辰さんが直接買うわけじゃなく、宿の女の人に頼んで買ってきて貰ってるようで……、こんないい服を着せて貰って有り難いです」

絢音は服の事を話し、改めて辰に感謝した。

「へへっ、そうか……、いいんだよ、服ぐれぇ、いいやつを買って貰いな、初めは知らねぇが、今の辰は恩を着せようとは思っちゃいねぇ、遠慮するな」

「っと……、はい」

ヤスのお陰で、絢音は父親の事を考えずに済んだ。
それから小一時間程たわいもない話をして、ヤスは部屋を出て行った。


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