この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
縁
第12章 成れの果て
辰は怒りはしない。
分かってはいたが、絢音は言い出せなかった。
「親父の為に作ってたんだな?」
父親がアパートに来ていたのは聞かなくてもわかる。
絢音が同情して食い物を用意する事位、容易に想像がついた。
「はい……」
絢音は首を竦めて伏し目がちに頷いたが……今の辰にとって、弁当の事など大した事ではなかった。
「そうか……、ま、そんな事ぁいい、絢音……、実は……親父さんなんだが……、川から遺体であがった」
酷く言いにくそうに事実を伝えた。
「え……」
絢音は驚き、耳を疑った。
「今警察がみてるが、おそらく事故で処理されるだろう、俺が金をやったのが悪かったか……、酔って川に落ちたんだろう」
父親が酔っていたかどうか、それは分からなかったが、辰はそんな風に考えた。
金を与えた事が仇になったのだとしたら、申し訳ないような……何とも言えない気持ちになるが、ただ……父親は自分の所には来ずに、川へ行った。
それが酷く残念に思えた。
「あ……、そんな……」
絢音は辰が金を渡した事を知ったが、頭が真っ白になって茫然としていた。
茫然とする中で『弁当を取りに来る筈がない、川で溺れていたのだから……』そう思って、悲しくて堪らなくなった。
「う……」
涙を堪える事が出来ず、俯いて両手で顔を隠した。
「絢音……」
辰は絢音を抱き寄せ、優しく腕で包んだ。
「辰さん、私……」
絢音は混乱して弁当箱の事を話そうとしたが、涙が出て上手く喋れなかった。
「ああ、弁当の事はいい、親父さんは俺が葬ってやる、あんな親父でも……お前の親父だからな」
辰は土左衛門に成り果てた父親の死を悼んだ。
あの父親はろくでなしだったが、絢音の事を父親として案じていた。
それがわかっただけでも……まだ救いがある。
分かってはいたが、絢音は言い出せなかった。
「親父の為に作ってたんだな?」
父親がアパートに来ていたのは聞かなくてもわかる。
絢音が同情して食い物を用意する事位、容易に想像がついた。
「はい……」
絢音は首を竦めて伏し目がちに頷いたが……今の辰にとって、弁当の事など大した事ではなかった。
「そうか……、ま、そんな事ぁいい、絢音……、実は……親父さんなんだが……、川から遺体であがった」
酷く言いにくそうに事実を伝えた。
「え……」
絢音は驚き、耳を疑った。
「今警察がみてるが、おそらく事故で処理されるだろう、俺が金をやったのが悪かったか……、酔って川に落ちたんだろう」
父親が酔っていたかどうか、それは分からなかったが、辰はそんな風に考えた。
金を与えた事が仇になったのだとしたら、申し訳ないような……何とも言えない気持ちになるが、ただ……父親は自分の所には来ずに、川へ行った。
それが酷く残念に思えた。
「あ……、そんな……」
絢音は辰が金を渡した事を知ったが、頭が真っ白になって茫然としていた。
茫然とする中で『弁当を取りに来る筈がない、川で溺れていたのだから……』そう思って、悲しくて堪らなくなった。
「う……」
涙を堪える事が出来ず、俯いて両手で顔を隠した。
「絢音……」
辰は絢音を抱き寄せ、優しく腕で包んだ。
「辰さん、私……」
絢音は混乱して弁当箱の事を話そうとしたが、涙が出て上手く喋れなかった。
「ああ、弁当の事はいい、親父さんは俺が葬ってやる、あんな親父でも……お前の親父だからな」
辰は土左衛門に成り果てた父親の死を悼んだ。
あの父親はろくでなしだったが、絢音の事を父親として案じていた。
それがわかっただけでも……まだ救いがある。