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第1章 終わりと始まり
絢音は訳が分からずポカンとしている。

「で、いくらだ?高値で買ってくれるんだろうな、なんせ一人娘だ、安売りはしねぇぞ」

父親は絢音を気にとめる事はなく、男に向かって金の話をし始めた。

「そうさな~、確かにいいんだが、なにせすぐには使いもんにならねぇ、暫くは下働きだからな、この位でどうだ?」

男は指を立てて父親に見せる。

「うーん、いや、あとこの位」

父親は納得できない様子で同じように指を立てた。

絢音は2人の間に立って2人のやり取りを見ていたが、2人は絢音を前に堂々とやり取りを続け、やがて父親は納得して頷いた。

「それじゃ、嬢ちゃん、行こうか」

話がついたら、男は早速手招きして言った。

「え、でも……」

絢音は自分の身に何が起きたのかわからず、狼狽えて父親を見た。

「絢音、お前はそのおじさんに買われたんだ、お利口にして真面目に働け」

父親は男から貰った金を懐に入れ、これで酒が飲めるとばかりに、ほくほく顔で絢音に言った。

「あ……」

絢音はようやく自分が身売りされた事に気づいた。

「そういうこった、嬢ちゃん、着替えやら必要な物を風呂敷に包んでもってきな」

茫然としていると、男が支度をするように言ってきた。
ショックで酷く悲しかったが、絢音はなにも言わずに指示に従った。
日々の苦労が積み重なり、疲れ果てているという事もあったが、金を手にして嬉しげにニヤつく父親を見たら……落胆して抗う気力が失せていた。
どのみち、幼い身ではどうする事もできない。

用意を済ませた後で、男について家を出た。

絢音は家を背にして歩き出したが、風呂敷包を両手にしっかりと抱え込み、決して振り向こうとはしなかった。


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