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第1章 終わりと始まり
◇◇◇

家を出たのは昼前だ。
まだ列車は走っているが、男は絢音を連れてタクシーに乗った。

そこから何時間もかかって目的の場所に着いたが、車から降りた時は空が茜色に染まっていた。

「ふう、車は楽だ、俺ぁこんな体をしてるからよ、荷物を抱えて列車の旅は辛いんだ」

男は絢音にぼやいたが、これだけの遠距離でタクシーを使うなど、金回りがいいから出来る事だ。
そこから更に30分程かけて歩き、辿り着いた場所は山あいの温泉街だった。


ここは人里離れた山奥だが、温泉街だけに人々で賑わっている。
建物のそばから湯気が上がり、通りには屈強な肉体をした男らが数人で束になって歩き、時折売春宿の見世を覗き込んでいる。
この近くには炭鉱があり、客の殆どは炭鉱夫だ。
炭鉱で働く者は大抵遠くからきていて、ほとんどが出稼ぎである。
ここは土塗れになった炭鉱夫達の汚れを洗い流す場所だが、欲求を満たす場所でもあった。
風呂屋は勿論の事、酒場や賭場、売春宿などが通りの両側にズラリと並び、妖艶な雰囲気を漂わせて活気づいている。


………

日が暮れかかった温泉街は、より一層賑わいを見せ始めていた。

街角に立つ化粧の濃い派手な服装をした女は、男が通りかかる度に甘えた声で男に言い寄る。
男が立ち止まり、二人はフラフラと脇にある建物の中へ消えて行き、また別の女が男に声をかける。
中には一見して12、3にしか見えない少年までいるが、この少年は男色を好む男を目当てに体を売りにきているのだ。

絢音は農村しか知らない。
大人達が何をしているのか、そんな事はわからなかったが、目を丸くして初めて見る光景に見入っていた。
それに、卵が腐ったような匂いが鼻につく。
硫黄の匂いだったが、それもまた初めて嗅いだ匂いだ。
鼻に手をやって嗅ぎ慣れぬ悪臭をしのぎながら、せむしの男について歩いた。

………

男は古びた木造アパートの前で足を止めた。

「嬢ちゃん、ここだ、さ、来な」

絢音に言うと、手すりを掴んで狭い階段をあがり始めた。
絢音も後を追って男と一緒に二階へあがり、一番端の部屋の前に歩いてきた。
男はドアの前に立つと、ドアをノックして中に向かって声をかけた。


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