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第1章 終わりと始まり
「旦那ぁ、いらっしゃいますか?沼田でさー」

男が名を名乗って問いかけると、数秒おいて部屋の中から返事が返ってきた。

「おう、沼田か、構わねぇ入れ」

「へい、では……失礼しやす、さ、来な」

絢音は男の後ろに立っていたが、男に手をひかれて中に入った。
部屋は1部屋しかなく、窓際に大柄な男が座っている。
この部屋の主、柏木辰だ。

「で、女は連れてきたのか?」

辰は期待するように聞いたが、沼田は申し訳なさそうに頭を下げた。

「あの……それが、今回はあまりいい玉がいませんで……、取りあえず連れてめぇりやしたが、おい、この旦那は偉いお人なんだ、旦那に挨拶しろ」

沼田は言いにくそうに説明して、絢音を自分の前に立たせたが、実のところ嘘をついていた。
辰に差し出す女はちゃんと用意していたのだが、他で高く買うと言われてそっちに売り渡してしまった。
急遽新たな女が必要になり、本当なら妙齢の女が良かったのだが、都合よく見つからず……仕方なく絢音を買い取って連れて来たのだ。
辰が不満げにするのは百も承知だったが、金の為なら意地でもこの場を切り抜けてみせる。
内心そう意気込んでいた。

絢音は辰の真正面に立たされていたが、辰はお世辞にも人相がいいとは言えなかった。
短髪で派手な色のシャツを身にまとい、だらしなく開いた胸元から、腹に巻いたサラシが見えている。
絢音は辰にジロっと睨まれて縮み上がる思いがした。

「おい、まさかそのガキじゃねぇだろうな?」

辰は眉を顰め、あからさまに不機嫌そうに聞いた。

「辰の旦那ぁ、この子はあと少し待てばいい稼ぎ頭になる、金の卵を産む鶏ですぜ」

沼田は揉み手をしながら辰に言った。




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