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第8章 クズの純情
絢音はどういう立場の人間なのか分からず、若い男を見て考えた。
顔が全く似てないし、兄弟とは思えないからだ。

「おう、しっかりやってるか」

「はい」

辰が声をかけると、男は恐縮したように返事をしたが、絢音はそこから横の一番奥の正面に目を向けた。
そこには大きな机が置いてあり、白髪混じりの初老の男が、背もたれの長い椅子にどっかりと座っている。

「辰よ、よく戻って来た、こっちへ来い」

男は野太い声で辰を呼び、辰はそっちに歩いて行った。
絢音はついて行っていいか迷い、その場に立ち竦んでいたが、ひょっとしたらその男が親分じゃないかと思った。

「親父、長い事ご無沙汰しておりましたが、申し訳ありません、元気そうでなりよりです」

辰は深々と頭を下げて挨拶したが、親父と呼んだので間違いない。
絢音はゆうべ、親分の事をそう呼ぶと辰から聞いていた。

「おお、まあ、今のところはな、んん……?そこにいるのは誰だ?」

親分は辰に言葉を返し、ふと絢音に気づいて目を向けた。

「あ、これはその……、俺のガキでして」

辰は慌てて説明した。

「ガキだと?お前にゃ女房なんぞいなかった筈だが、あれか?ガキだけこさえたのか?にしても……何故お前が連れてる」

親分は怪訝な顔で聞き返す。

「へい、若気の至りで出来たガキですが、女が死んじまったもんで、今頃になって引き取った次第です」

辰は思いつきで適当な嘘を並べ立てたが、日頃の行動からすれば、実際にあっても不思議のない話だった。

「おお、死んだのか、それにしてもお前がガキを引き取るとはな、よく決断したもんだ、年を食って少しは丸くなったか」

親分はすんなり信じたが、こういう稼業ではありがちな話だからだ。
ただ、子供を引き取ったのは意外だと思った。

「へい、そうかもしれません」

辰は否定しなかった。








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