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第8章 クズの純情
「はははっ、そうか、いや、いい事だ、わしらみたいな人間でも、最低限情けは必要だからな」

親分は笑い飛ばして辰を褒めた。

「あの、俺の話はもうそれ位で……、それより銀次って野郎が色々やらかしてると聞きましたが」

辰は話題を変え、一番気になってる事を聞いた。

「おお、それなんだが」

親分は諍いについて話し始め、絢音はそれとなく聞き耳を立てた。
だが、さっき辰に挨拶した若い男が絢音の傍にやってきた。

「嬢ちゃん、そんなとこに立たせたままじゃ申し訳ねぇ、兄貴の娘さんだ、どうぞ、こっちへ来て座っておくんなせぇ」

絢音に座るように言ったが、辰の娘だと聞き、ほっといたらマズいと思ったのだ。

「あ、はい……、すみません」

絢音は男の丁重な態度に戸惑ったが、辰の方が立場が上なんだと思った。
だから、男は辰を兄貴と呼んだ。
疑問が解消され、遠慮がちにソファーに座った。

「おお、なにか飲むか?ジュースならあるぜ」

男は笑顔で聞いてきた。

「あ、はい、すみません……」

こんな風に特別扱いされるのは慣れてない。
絢音は縮こまって返事を返した。
男はジュースを用意しに奥の扉に入っていき、絢音は再び親分と辰の話に耳を傾けた。

それによると……。
敵対する組は銀次という流れ者に好き放題やらせているという事だ。
銀次は手練を集めて小隊を作り、辰の組を潰しにかかる勢いで襲撃を繰り返しているらしい。
既に若い衆が数名命を絶たれているが、リンチを加えられた末に殺されたという事だ。

そこで若い男がジュースを持ってきた。
絢音が頭を下げて礼を言うと、男は元いた場所に戻って行ったので、絢音はせっつくように親分と辰の話に聞き入った。
親分は血で血を洗うような争いは避けたいと思っていたが、相手側は話し合いに応じなかったらしい。
このままでは犠牲者が増え、当然屋台骨も危うくなる。
親分はよそ者の分際で抗争に加わった銀次に腹を立て、辰に銀次を始末するように命じた。

それを聞いて、絢音はドスを思い浮かべた。
辰はあの小刀のような長いドスを持ってきている。
あれを使う時が来てしまったんだと思ったら、不安に襲われるのだった。


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