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第8章 クズの純情
だけど、銀次は徒党を組んで行動している。
ヤスと2人だけじゃ危ないんじゃないかと思った。

「大丈夫よ、まだ他にも仲間が一緒に行くから、さ、お部屋に行きましょう」

姐さんは優しく話をして、絢音の手をそっと握る。
あたたかく柔らかな手の感触は、朧気に浮かぶ母の姿を連想させた。
絢音は無言で頷き、姐さんに手を引かれて屋敷の奥へ歩いて行った。


─────


一方、辰はヤスと2人でめぼしい場所をあたっていた。
賭場に売春宿、酒場などだが、途中で仲間が3人合流し、5人で銀次の行方を追った。
辰の属する組は早川組、敵対側は薮川組という名で、両組には川という共通の漢字が入っているが、特に何の繋がりもなく、薮川組は早川組を潰そうと企んでいた。

5人は酒場を1軒ずつ回っていたが、ある古びたバーに立ち寄った際に、薮川組の人間と出くわした。
相手は3人いたが、睨み合いから始まって言い争いになり、小競り合いになった。
バーの店内だった為、辰は外に出るように言い、店の前で乱闘になったが、昼間という事もあって周りで見ていた誰かが警官を呼びに行き、やがてお巡りさんがやって来た。
喧嘩をしていた両組の人間は一瞬で喧嘩をやめ、それぞれに分かれて脱兎のごとく逃げだした。
お巡りさんは直ぐに追いかけたが、塀を飛び越えて逃げたり、路地裏の狭い道に逃げ込んだので、自転車では追いつけなかった。

「けっ、銀次の野郎、どこに隠れやがった」

辰は苛立って吐き捨てるように言う。

「向こうにとっちゃ切り札みてぇなもんだからな、奴ら、銀次がいなけりゃたいした事ぁねぇ、お前が街に戻ったと聞いて、奴を隠したんだ」

「せこい真似をしやがって、余所もんに手を借りる事自体、みっともねぇと思わねぇのか?呆れた奴らだ」

「ま、焦ったらいい事ぁねぇ、虱潰しに探しゃそのうちみつかる」

5人は口々にぶつくさ言ってまた歩き出した。




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