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第8章 クズの純情
仲間のひとりが銀次に襲いかかった。

「やめろ!」

だが、辰が止めた。

「へっ、わりぃな、じゃサヨナラだ」

銀次は上手くこの場を切り抜け、女を連れて遊廓から出て行った。



◇◇◇

銀次が街から居なくなった後、早川組は薮川組に話し合いを打診した。

この度の諍いは薮川組が起こした事で、本来なら早川組はこの機に乗じて薮川組を潰したっていい。
しかし、早川組の親分はこの機会にシマを巡る諍いを片付け、薮川組と共存する道を選んだ。
早川組の親分は……この諍いで出た両組の犠牲を痛み分けとし、互いに水に流す事を薮川組の親分に約束させ、あくまでも自らが信じる仁義を貫き通した。

そして辰が街へ来て八日目。
両組の諍いは、早川組の親分が度量の広さを見せつける形となって決着がついた。

辰は街を引き上げる事にしたが、親分は辰に多額の報酬を与え、温泉場を引きあげて街へ戻るように言った。
しかし、辰は首を縦には振らなかった。
温泉場には自分を頼りにする人間がいる。
それもあったが、絢音と親子だと言ってしまった為、街にいたら親子として暮らさなければならない。
今はもう無理だった。
丁重に断ったら、姐さんが学校の事を持ち出してきた。

「学校は通った方がいい、温泉場じゃ通えないでしょ」

「ああ、はい、ですが……こいつは読み書き位できます、勉強してぇっていうなら何か本を買ってやります」

辰は時折絢音に本を買い与えていた。
それらは娯楽の為の本だが、必要なら学問書を買ってやるつもりだ。

「だけど、教えてくれる先生がいなきゃ、辰さんじゃ先生の代わりは無理でしょ?」

姐さんは簡単には諦められず、教師の話を出して辰に聞いた。

「へい、俺はできませんが、それなら、勉強のできる奴をあたって頼んでみます」







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