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第8章 クズの純情

男は死んだのが遊女だという事もあり、金を受け取るのを躊躇った。
酷い言い方に思えるが、男は遊女を軽んじて言ったわけではない。
女郎屋に身を投じたら最後、いい旦那でも見つけない限り、男の言ったような運命が待ち受けている。

「構わねぇ、俺は日頃好き放題やってるが、遊女だからといって、虫けらのように死んでいいとは思っちゃいねぇ、俺らが踏み込んだ事で女は巻き添えを食った、だからこの金で葬ってやれ」

辰は自分に責任があると思っていた。

「そうか……、わかった、じゃ受け取るわ、この金できちんと葬ってやるから、安心しろ」

男は神妙な顔で答え、差し出された金を受け取った。

「辰、お前……」

ヤスは『意外だな』と言おうとしたが、それ以上何も言わずにいた。
辰の心情を汲み取り、余計な事は言わない方がいいと思ったのだ。

「そんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

男はすぐに踵を返し、玄関から出て行った。

「絢音、用意は出来たか?」

辰は部屋に戻って絢音に聞いた。

「はい」

絢音は風呂敷包みを両腕に抱え、辰を見上げて返事を返す。

「そうか、じゃ、今日は宿に泊まる、ぼちぼち行こう」

じきに昼がくる。
辰は昼を適当に食べて宿をとるつもりだった。

「おい、宿に行くのか?」

ヤスは慌てたように聞いた。

「ああ」

「明日帰るんだろ?あんましゆっくり出来なかったしよ、泊まってけ」

銀次の事でゆっくりする時間がなかったので、辰ともう少し語り合いたかったのだ。

「いや、初日に飲んだだろ、あれで十分だ」

だが、辰はここに泊まるつもりはなかった。
街には久々に舞い戻ってきたが、絢音をどこかへ連れて行ってやる事も出来ず、親分の家に預けっぱなしになっていた。
最後の夜くらい、絢音と2人きりで静かに過ごしたかった。






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