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第8章 クズの純情


飲んだくれの父親に酒を買って来いと言われ、買いに行かされたのだが、父親はツケで酒を買っていた。
けれど、収入がないのだから、ツケは溜まる一方だ。
酒屋の親父に断られ、頭を下げて頼み込む。
酒を持ち帰らなければ、父親に頬を叩かれるからだ。
小さな子供が頭を下げる姿は、見るに堪えないものがある。
酒屋の親父は渋々絢音に酒を渡した。


やがて注文の品が運ばれてきて、絢音は鮮やかな黄色と赤い色に目を奪われた。
辰の前にもボリュームたっぷりなカツが置かれたが、辰は食べようと思ってナイフとフォークを掴み、何気なく絢音を見た。
絢音はオムライスをじっと見つめて固まっている。

「絢音何してる、食え、ああ、スプーンを使え」

食べるように促したが、ひょっとしたら分からないのか?と思って、スプーンを使うように言った。

「はい……」

事実、絢音はよくわからなかったのだが、美しい色と形状をした食べ物に見入っていたのだ。
言われたようにスプーンを持って食べ始めたが、初めて食べる食べ物だ。
怖々口に運んでみたら、ケチャップの甘酸っぱい味と、トロトロの卵が口の中で一緒くたになり、あまりの美味しさに鳥肌が立った。

「辰さん……、これ、美味しい、凄く美味しい」

感動のあまり、興奮気味に辰に話しかけた。

「ははっ……、そうか、そいつは良かった、遠慮するな、どんどん食え」

辰は絢音に食べるように促したが、素朴な反応につい笑っていた。

「はい」

絢音はコクリと頷き、夢中になって食べた。
辰は自分も食べたが、絢音が気になってチラ見しながらフォークを口に運んだ。
すると、絢音はひと口食べては幸せそうな表情を浮かべる。
無垢というか、無邪気というか……やっぱりガキだ、と……そんな事を思ってニヤついていた。



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