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第8章 クズの純情
◇◇◇

宿は出来るだけ高そうな宿を選んだ。

辰は絢音に少しでもいい思いをさせてやりたかった。
宿に入ったら、女将の出迎え付、案内付、荷物まで運んでくれた。
夕飯もついていて、膳を部屋に運んでくれる。
風呂は街中だから露天風呂とはいかなかったが、大浴場は露天風呂風にデザインされている。
何故わかったかと言うと、女将が部屋に案内する時に話したからだ。

座敷は2階にした。
絢音は2階の窓から景色を眺めるのが好きだからだ。

貝細工を施したいかにも高級そうな座卓に、ふかふかの座布団。
絢音は風呂敷包みを隅へ置いて座布団を敷いた。

「辰さん、どうぞ」

「おお」

辰は差し出された座布団に座った。
絢音は背が低い。
だから余計に幼く見えるが、気遣いは天下一品だと、辰は感心していた。
それが証拠に、座卓に置かれた金属製の魔法瓶を手にして、お茶をいれようとしている。
茶葉に急須、湯呑み、茶菓子、これらは旅館側がサービスで置いている物だ。
絢音は盆に乗ったそれらを見た時に、ご自由にどうぞと書かれた紙を見た。
それで使ってもいいんだと判断し、早速お茶をいれる事にした。

辰は忙しく動く絢音を見ていた。

「絢音、お前も座ってな、俺ならいい、自分でやる」

ゆっくり過ごしたくても、これじゃゆっくりできない。

「はい、でもお茶だけいれます」

しかし、絢音はやりかけた事は済まさなきゃ気が済まない。








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