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第8章 クズの純情
辰はひと通り説明して、部屋の隅に置かれた籠を見た。
そこには言った通りに浴衣やタオル、必要な物が入っていた。

すぐに用意して行きたかったが、辰は絢音が茶をいれ終わるのを待ち、一服しながらいれた茶を飲み干した。
絢音に対する心ばかりの気遣いだ。

その後で、必要な物を抱えて浴場へ向かったが、2人して廊下を歩き、階段を降りてまた廊下を歩く。
すると、年寄りの夫婦とすれ違った。
夫婦は辰を見て目を合わさないようにしたが、そのすぐわきに娘と思われる可愛らしい女の子がいる事に気づき、絢音を見てつい顔を綻ばせていた。
大柄な男とは不釣り合いな背の低い少女は、俯き加減に楚々として歩いている。
辰の風貌が逆に絢音を引き立てていた。
4人は互いに何も言わずに通り過ぎたが、老夫婦の目には仲睦まじい親子に見えた。

浴場に着いたら、絢音は暖簾を前にドキドキしていた。

「辰さん、先にお風呂から出たら待ってて欲しい」

何となく不安で辰に頼んだ。

「ああ、待っててやる、ゆっくり浸かってこい」

「はい」

辰が言うと、絢音は安心したように笑顔で頷いた。
女湯の暖簾をくぐったら、あとは辰に言われた通りにした。
裸になって浴場に入ったら、ひとり湯に浸かっている人がいたが、絢音が洗い場で体を洗い終わる前に出て行った。

全部洗い終えると、絢音はワクワクしながら湯に浸かってみた。
だだっ広い湯船にひとりぼっちだ。

「凄い……海みたい」

絢音は悪戯っぽい笑みを浮かべ、両手を広げて前に泳いでみた。

「あははっ、凄く気持ちいい」

誰もいないし、ちょっと位いっか……。

乳白色の湯船は自分専用だ。
そう思って好きなように泳いでいたが、しばらくするとなんだか体が熱くなってきた。

「う、なんだか頭がクラクラする……」






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