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第8章 クズの純情
とりあえず湯から出た方がいいと思い、湯船から上がったが、頭がのぼせて立ちくらみがした。
辰が待っているかもしれないし、外に出ようと思った。
ロッカーで浴衣を着て脱いだ服を抱えて持ち、暖簾をくぐって外に出た。
辰は出入り口から少し離れた場所に立っている。

「おう、出たか?」

絢音を見てそばにやって来た。

「はい……、あの」

絢音は白状しようか、迷った。

「ん、どした?やけに顔があけぇな」

辰は屈み込んで顔を覗き込んだ。

「っと……、お風呂は誰もいなくて……、私……泳いだんです」

辰があまりにも心配そうな顔をしているので……白状した。

「空いてたからな、しかし……泳いだのか?ははっ、そりゃのぼせたんだろう、冷たい物でも飲んだ方がいい、そこの売店に寄ろう」

絢音は大人びて見える時もあるが、まだまだ子供なんだと、辰はこっそり安堵した気分になっていた。
実はさっき……浴衣姿の絢音を見てドキッとしたからだ。
絢音の背中に手をあてがい、支えるようにしながら売店でジュースを買った。

「歩きながらでかまわねぇ、飲んじまいな」

瓶入りジュースの栓を抜いて渡し、飲むように促した。

「ありがとう……」

絢音はお礼を言ってジュースを飲んだ。
冷たい液体が喉を通り抜けていくと、のぼせた頭が少しすっきりした。

手に瓶入りジュースを持ち、荷物は辰が持って部屋に戻った。

「ふう~」

絢音は座布団の上に座り、ジュースを座卓に置いてため息をつく。

「はははっ、やっぱりまだガキだな」

辰はからかうように言った。

「だって、凄く広いんだもん、海みたいで……つい」

「ま、いいじゃねぇか、お前が楽しけりゃそれでいい」

辰は絢音が嬉しそうにするのを見る事が、いつしか自分の喜びになっていた。
座布団の上で胡座をかき、上機嫌でタバコをくわえた。

だが、絢音は少し気になっている事があった。
ヤスの家を出る前にやって来た男の事だ。
あの後、バタバタとヤスの長屋を後にし、洒落た洋食屋なんかに立ち寄ったせいで、聞くタイミングを無くしていた。
今ならゆっくり話ができる。

「あの、辰さん……」







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