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第8章 クズの純情
一段落ついたところで、2人して食べ終えた膳を片付け、全部廊下に出した。
それから、辰は絢音を誘って窓際に行った。
そこには洒落た椅子とテーブルが置いてあったが、そんなのは無視して床に腰をおろし、絢音と並んで窓の外を眺めた。

ここは色街ではない。
だから温泉場のような、派手な女が男を誘うような光景はなく、旅館前の通りを歩く人達はごく普通の服装をした人々だ。

「辰さん、ここは静かですね」

普通に暮らしてきた人間からすれば、何の変哲もない景色だが、絢音にとっては珍しい景色だった。

「ああ、客ひきをする女はいねぇからな」

辰は興味津々に通りを眺める絢音を見て、『そういえば、絢音は普通の景色ってやつを知らない』と、ふとそんな事を思った。
姐さんが言っていたが、学校にも行ってない。
それは途中から絢音を引き取った辰よりも、実父の方が悪いのだが、辰はどことなく責任を感じた。

「なあ絢音、お前……学校行きてぇか?っと……今の歳だと……中学校か?」

絢音に聞いてみた。

「学校?ううん、私、辰さんと一緒にいる方がいい」

「だけどよ、普通のガキみてぇに暮らしてみたくねぇか?」

売春宿に囲まれた生活は、普通の人達からしたら異常な事だ。

「今の暮らしが普通なの、だからいい」

でも絢音は異常だとは思ってなかった。

温泉場の通りは娼婦に湯女、若い衆、炭鉱夫に男娼……様々な人間が行き交っている。
時折喧嘩が起こり、怒号が飛び交う事もあれば、酔った客が水瓶に頭を突っ込んだ事もあった。
お世辞にも柄がいいとは言えない。
だけど売春宿で働く娼婦は、辰に頼まれて絢音の下着や服を買ってきてくれる。







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