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第2章 優しい人
◇◇◇

翌朝、絢音は眩しくて目を覚ました。

初夏の日差しが磨り硝子を通り抜け、眩い光で部屋の中を照らしている。

「う……」

体を起こして怖々辺りを見回せば、隣に布団が敷いてあったが、辰の姿はどこにも見当たらない。
ホッとして枕元に置いた風呂敷包みを手に取り、膝の上に置いて結び目を解いた。
中には質素な着物が二枚と下着、母の形見の手鏡が入っている。

「お母さん……」

絢音は手鏡を持って自分の顔を写し、鏡に写った自分自身に話しかけた。
絢音はひとりきりの時に、いつもこうして鏡に話しかけていた。
母は物心つく前に亡くなっていた為、その姿は朧気にしか浮かんでこない。
その為、鏡の中の自分を母に見立て、辛い気持ちを吐き出していたのだ。
しかし、今はこれまでになく、大きな不安に襲われていた。

「お母さん、私……どうなるのかな?」

昨日、派手な化粧をした女の人が、道端で男の人を誘っていたが、あの女の人は多分……。
絢音はまだ男女の性について知識がなかったが、女郎という女性がいるのは知っていた。
父親が酔っ払って女郎の話をした事があるからだ。
具体的にどういう事をするのか、それはわからなかったが、女郎が身を犠牲にして金を得ているのはわかる。
自分も身売りされたのだから、女郎と同じ道を歩むのかもしれない。
そう思ったら無性に怖くなり、今すぐここを逃げ出したかった。
だけど、もし逃げて……奇跡的に家に辿り着いたとしても、父親は怒鳴りつけて頬を叩くだろう。

逃げても、帰る場所がない。

「はあ……」

重い溜め息が漏れた。
手鏡を荷物の上に戻したが、風呂敷は結ばずにそのままぼんやりと見ていた。
夜の賑わいが嘘みたいに外は静かだ。
雀がチュンチュン鳴いている。

救いようのない重苦しい気持ちになったが、こんな気持ちになるのは初めてじゃない。
毎日食べる物がなくて今日はどうしようかと、朝が来る度に悩んでいた。
だから、慣れている。
女郎にはなりたくないが、それは何年か先の話だ。
今はやる事をやらなければ、辰に叱られる。

絢音は気を取り直し、布団を畳んで押し入れにしまい込み、辰の布団も片付けようと思った。

屈み込んで布団を掴んだら、ドアが開いて辰が戻って来た。





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