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第2章 優しい人
「おう、起きてたか、丁度いい、ほら、適当なもんを買ってきてやったぞ」

辰はやたら活気づいて言ったが、手には木箱を抱えている。
それを台所の床におろし、流し台の棚を探りながら絢音を呼んだ。

「おい、こっちに来てみろ」

「はい……」

絢音はこくりと頷き、遠慮がちに辰の傍へ歩いて行った。

「鍋なんぞ、長い事ほったらかしてたが、あったあった」

辰は棚から鍋を引っ張り出した。

「あのな、お前が料理できるって聞いたからよ、買ってきたんだ、これと……これだ、材料もあるからな、何か作ってみろ」

喋りながら木箱からまっさらなまな板と包丁を出し、鍋と一緒に流し台の上に置いた。
辰は早朝から商店に押しかけ、店主を叩き起こしてこれらを買ってきたのだ。
店主は寝ぼけ眼で傍迷惑な客の要望を聞いたが、辰はこの温泉場を仕切るヤクザだから、文句を言う勇気はなかった。
箱の中には野菜が山ほど入っていて、肉や魚も入っている。
絢音は山盛りの野菜、新鮮な魚や肉をじっと見つめ、驚きでいっぱいになっていた。

「ん、ひょっとして……、珍しいのか?」

辰はすぐにピンときた。

「はい……」

絢音は正直に頷いたが、こんなに沢山の食材を見たのは初めてだった。

「そうか、金の為に売られたんだ、そりゃ当然か……」

辰は納得して頷いたが、ガリガリに痩せた絢音を見れば一目瞭然だ。

「あのな、お前がきちんとできるようなら、食いもんは好きなだけ食わせてやる、その代わり……家の事をやれ」

絢音に向かって言ったが、辰は子供好きでもなければ、下手な同情心も持ってない。
役立つようなら置いてやろうと思っただけだが、活気づいて朝っぱらから買い出しに行ったのは、こういう事は初めてで、変に楽しみに感じたからだ。
辰が女を部屋に連れ込むのは、体が目的で料理を作らせた事は一度もなかった。
だから、つい張り切ってしまったのだ。




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