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第9章 悪い癖
「だけど、百合子お姉さん、私……、辰さんの事をよく知ってる、辰さんは悪い人じゃない、でも……女の人には冷たい、お姉さん……、もし辰さんが何かしてきても、断った方がいい、だってお姉さんは断れると思う、私の先生なんだから」

絢音は忠告とも取れる事を言ったが、百合子は今までの女達とは立場が違う。
絢音にもそのくらいはわかるから、拒否するように言ったのだ。

「あ……、ええ、そうね」

百合子は絢音の本音について頭を巡らせた。
自分に嫉妬しているのか、それとも本当に心配しているのか……。

「私、ほんと言うと……、辰さんが女の人に手を出すのは嫌だと思ってる、だけど……これまでの女の人は、みんな散々オモチャにされて、飽きたら捨てられた、そういうのはもっと嫌で……もう見たくない」

絢音は百合子の胸中など知る由もなく、菜摘の事を思い出していた。
あの時、辰は菜摘をいたく気に入って暫く部屋に置き、その上でやりたい放題だった。
辰があんまり見せつけるものだから、絢音は菜摘に嫉妬した。
ひょっとしたら……このまま菜摘を部屋に住まわせるのでは?と疑念すら抱き、遠慮がちに接してくる菜摘を冷たくあしらった。
けれどある日、辰は帰宅していきなり菜摘と事に及んだ。
絢音は腹が立って仕方がなかったが、辰はやるだけやったら、今から菜摘を売春宿に連れて行くと言い出した。
菜摘に向かって『今夜から客をとれ』と酷な事を言い放ち、菜摘は茫然と立ち尽くしていた。
それを見て、絢音は胸が痛んだ。




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