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第9章 悪い癖
「そういうこった、絢音、今更だが……俺はこういう男だ」

辰は投げやりに言うと、赤ん坊を置き去りにして部屋に歩いて行き、ちゃぶ台の前に座ってポケットからタバコを取り出した。

「じゃあ、お姉さんがやめたのは……それが原因だったんだ」

絢音は百合子が家庭教師やめる前、体つきがふっくらとしていた事を思い出していた。
お腹は注意して見なかったが、今から思えば少し膨らんでいたように思える。

「そうだ、けどよ、俺は一緒になるつもりはねぇし、ガキが出来ても責任は一切おわねぇと言った、なのに……あいつが望んだんだ」

辰は自分こそ被害者だと言わんばかりに話したが、どうせ欲に負けて無責任な事をしたに違いない。
絢音はよくわかっていた。
けれど、何故辰が赤ん坊を連れ帰るのか、意味が分からない。

「あの、だけど……、どうして辰さんが赤ん坊を?」

「百合子は死んだ」

辰はタバコに火をつけて言った。

「えっ……」

絢音は愕然となり、驚いた顔で辰を見た。

「難産だったらしい、で、呆気なく死んじまった、宿の女将が困ってよ、ガキをなんとかしてくれって俺に言ってきた、百合子のやつ、俺のガキだと言ったらしい」

百合子お姉さんが死んだ……。
別れた時はあんなに元気にしていたのに、信じられない事だった。









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