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第9章 悪い癖


「そんな、お姉さんが……」

「ああ、だからよ、女将は苛立ってる、百合子は稼ぎ頭だった、それでギリギリまで働かせたが、いよいよとなったら休まなきゃ仕方がねぇ、その休んだ期間、稼ぎがなくなったのを不満に思ってる、ガメツイ女将だからな、その上、百合子が死んだとなりゃ……最悪に損した気分なんだろう、ガキを始末しろって、無理矢理渡してきた」

辰は呆れ返って言ったが、たとえ望まれぬ赤ん坊だったとしても、簡単に『始末しろ』などと言える女将の神経を疑った。

「酷い……」

「ああ、ま、俺もわりぃ、だがな、湯女なんてもんは色んな男とやるんだ、俺の子かどうか、わかったもんじゃねぇ」

辰は辰で、自分の子かどうか疑っている。

絢音は誰の言う事が正しいのか、どう考えたらいいのか……混乱した。
辰は百合子が望んだと言ったが、絢音はいつか百合子と2人で辰について話をした事がある。
その時に絢音は百合子に注意を促した。
なのに、百合子はその忠告を聞かなかったという事になる。
つまり……それだけ辰の事が好きだった。

「ガキは女だが、さすがに赤ん坊じゃ買い手がいねぇ、ガキが欲しい奴んとこに養子に出すしかねぇな」

「養子……」

「ああ、金持ちをあたってみる、それまでは置いとくしかねぇ、絢音、頼めるか?」

辰は絢音をあてにしていた。

「あ、あの、私、兄弟いなかったし、赤ん坊はよくわからない」

しかし絢音は赤ん坊に対して知識がない。

「そうか……参ったな、赤ん坊を育てた事がある女もいるにはいるが、湯女か売女だ、相部屋だったりするからな、赤ん坊がいたら他の女が嫌がるだろう、ギャーギャー泣くし、うるせぇからよ~」

辰は困り果てている。
それに辰の話からすれば、そんな人に預けたら……赤ん坊は邪険にされるだろう。

「あ、っと……じゃあ育児の本、そんなのがあれば……世話出来るかも」

絢音は百合子から色んな本を貰った。
そこからふと思いつき、辰に言ってみた。

「おお本か、本屋なら1軒ある、ちょっと行ってくるわ」

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