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第9章 悪い癖
辰はいい案だと思い、タバコを消してすぐに出かけて行った。


絢音は赤ん坊と2人きりになり、置き去りにされた物体を見た。
百合子の産んだ赤ん坊……。
辰の子供である可能性が高い。
でも、百合子はこの子を残して死んでしまった。

可哀想だと思う気持ちと、嫉妬めいた蟠りが心の中で渦巻いていた。
それでも自分が面倒をみるなら、どのみち赤ん坊を見なきゃならない。
絢音はそっと立ち上がり、怖々赤ん坊のそばに行った。

布が邪魔で顔がよく見えない。
しゃがみこんで顔を覗き込み、顔を近づけて見てみた。
赤ん坊はスヤスヤと眠っている。
端正な顔立ちをした綺麗な赤ん坊だ。
どっちに似てるかな……。
何気なくそう思った時に、赤ん坊が目を覚ました。

「あっ、その~」

キョロキョロしているが、絢音の顔が見えるらしく、顔をくしゃっとさせて微笑んだ。

「今……笑った?」

絢音は腫れ物を触るような心境だった。
ドキドキしながら見ていると、赤ん坊は『あーあー』と声を出した。

「あ、っと~、はじめまして、絢音です」

赤ん坊なんか見た事もないので、絢音はつい挨拶していた。
生家にいた時は子守りの仕事もあったが、絢音は兄弟がいない為、子守りを任せる者はいなかった。
だから、赤ん坊についてはまったくの素人だ。

「あー、うー」

赤ん坊は絢音に向かって話しかけている。

「ん、お腹空いたの?」

機嫌は良さそうに思えたが、自信がない。
何か訴えているのかもしれないし、早く辰が戻って来ないかと、絢音はヤキモキしながら赤ん坊を眺めていた。




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