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女喰い
第6章 弥八郎
夕飯の支度が出来た頃、外の戸口の前で誰かが呼んだ。
産婆は腰を擦りながら戸を開けた。
「おお、こんな時分にすまねーな、ここにお美代ちゃんがいると聞いてな」
やって来たのは弥八郎だったが、お美代は声を聞いてわかった。
「あんたは誰だい? 」
産婆は不審に思って聞いた。
「ああ、俺は元郷田屋の若旦那、今は渡世人の弥八郎ってもんだ」
弥八郎は正直に答えた。
「えっ、若旦那……、なのに……渡世人なのかい? 」
産婆は唖然としている。
大棚の若旦那が渡世人……ちょっと信じられない事だが、しかしながら、確かに風体は渡世人だ。
「ああ、そうだ、おお、これを……お美代ちゃんと一緒に食べてくれ」
弥八郎は手土産に饅頭を持参していたので、それを産婆に差し出した。
「おやまあー、饅頭だね、いやー有難い、お美代ちゃんならいるよ、さ、入っとくれ」
産婆は饅頭をみた途端、破顔して饅頭を受け取り、快く中へ入るように言った。
「ああ、それじゃ、ちょいと邪魔するぜ」
弥八郎は土間に入り、座敷の方へ歩いて行った。
狭い長屋だから少し歩けばすぐに座敷が見えてきた。
「あ、あの……、どうも」
お美代は焦りながら起き上がり、弥八郎の方へ向いて挨拶した。
「ああ、起きなくていい、いいから寝てな、気ぃ使うこたぁねー」
弥八郎は上がり口に腰をおろして言った。
「はい……、では……すみません」
お美代は頭を下げ、遠慮がちに体を横たえると、元通りに体の上に布団をかける。
「腹の子は残念だったが、こんな事言ったらお美代ちゃんが傷つくかもしれねーが……、ここは本音で言わせて貰う、これで良かったんだ、親父の子など、産む必要はねー」
弥八郎は子が死んで安堵していた。
無事に生まれたところで、不幸な人間を増やすだけだと知っているからだ。
「はい……」
産婆は腰を擦りながら戸を開けた。
「おお、こんな時分にすまねーな、ここにお美代ちゃんがいると聞いてな」
やって来たのは弥八郎だったが、お美代は声を聞いてわかった。
「あんたは誰だい? 」
産婆は不審に思って聞いた。
「ああ、俺は元郷田屋の若旦那、今は渡世人の弥八郎ってもんだ」
弥八郎は正直に答えた。
「えっ、若旦那……、なのに……渡世人なのかい? 」
産婆は唖然としている。
大棚の若旦那が渡世人……ちょっと信じられない事だが、しかしながら、確かに風体は渡世人だ。
「ああ、そうだ、おお、これを……お美代ちゃんと一緒に食べてくれ」
弥八郎は手土産に饅頭を持参していたので、それを産婆に差し出した。
「おやまあー、饅頭だね、いやー有難い、お美代ちゃんならいるよ、さ、入っとくれ」
産婆は饅頭をみた途端、破顔して饅頭を受け取り、快く中へ入るように言った。
「ああ、それじゃ、ちょいと邪魔するぜ」
弥八郎は土間に入り、座敷の方へ歩いて行った。
狭い長屋だから少し歩けばすぐに座敷が見えてきた。
「あ、あの……、どうも」
お美代は焦りながら起き上がり、弥八郎の方へ向いて挨拶した。
「ああ、起きなくていい、いいから寝てな、気ぃ使うこたぁねー」
弥八郎は上がり口に腰をおろして言った。
「はい……、では……すみません」
お美代は頭を下げ、遠慮がちに体を横たえると、元通りに体の上に布団をかける。
「腹の子は残念だったが、こんな事言ったらお美代ちゃんが傷つくかもしれねーが……、ここは本音で言わせて貰う、これで良かったんだ、親父の子など、産む必要はねー」
弥八郎は子が死んで安堵していた。
無事に生まれたところで、不幸な人間を増やすだけだと知っているからだ。
「はい……」