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女喰い
第5章 淫欲に塗れる中で……。
やってきたのは彦兵衛だった。

「はい、旦那様」

五作は彦兵衛に向かって頭を下げたが、彦兵衛は五作にはめもくれず、お菊のそばに歩いて行く。
お菊は怯えた目をして彦兵衛を見上げ、赤ん坊をしっかりと抱いていた。

「お菊、お前には新しい店に移って貰う、赤子を貸しなさい」

彦兵衛はタミコと同じようにするつもりだった。

「旦那様、この子は旦那様の子です……、こんな乳飲み子をどこへ連れて行くのですか?」

お菊は彦兵衛の腹の内を読み、疑うように質問する。
産まれる前は自信がないと言っていたが、いざ産まれたら我が子に情が湧いていた。

「わしの子だから、わしの好きにする、さ、貸しなさい」

彦兵衛はお菊に向かって手を出した。

「出来ません……」

お菊は拒み、赤ん坊を庇うように抱いて離そうとしない。

「いいから、貸せ! 」

彦兵衛は赤ん坊を強引に奪い取った。
赤ん坊は泣きじゃくり、お菊は悲痛な表情をして返してくれと訴えたが、彦兵衛はお菊を無視して蔵の外へ出て行く。

「そんな……、酷い、う……うわああーっ! 」

お菊は突っ伏して号泣し、五作は目の前で起きた出来事をどう処理していいか混乱した。

「あ、お菊……旦那様……」

お菊を宥めようか……それとも旦那様を追いかけるか……焦りながら迷ったが、五作は赤ん坊の事が気になり、蔵から出て辺りを見回した。
彦兵衛は既にいなかったが、番人の姿が見えない。
何かとても嫌な予感がして、なんとなく裏口へ向かった。
すると、そこには番人がいたが、赤ん坊を抱いて外に出ようとしている。
五作は見つからないようにこっそり番人の後をつけた。

番人は山の方へ向かっている。
ある程度距離を置いて隠れながら後を追うと、番人は赤子を抱いて細い獣道に入り込み、枯れ草が茂る山中の林の中に踏み入った。





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