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女喰い
第6章 弥八郎
更に数日経ち、お美代は番頭の茂平に用事を頼まれた。
お菊がいなくなり、新たな下女を紹介して貰う為に、顔馴染みの口入れ屋に手紙を届けるように……との事だ。
手土産に菓子折りを持って行けと言われ、手紙と菓子折りを持って屋敷の門を出た。
屋敷から出る時は余所行きの着物を着る。
着物は彦兵衛が与えてくれるが、使用人は店の看板でもある為、あまりみすぼらしい格好をさせられないからだ。
身重の体で風呂敷包を抱えて口入れ屋を目指して歩いた。
この日は町で祭りごとがあったらしく、町中はあちらこちらに屋台が出ている。
飯屋や食事をする為の茶屋も、いつもより出入りする人が多い。
お美代は飴細工や金魚売りを珍しそうに眺めながら、口入れ屋の前にやって来た。
入り口のわきに田倉と書かれた看板があり、お美代は暖簾を潜った。
帳場格子の中に主人が座っていたが、下に向いてそろばんを弾いている。
「あの、すみません……、廻船問屋、郷田屋の者ですが、番頭さんから手紙を預かって参りました」
お美代が頭を下げて声をかけると、主人は上目遣いでお美代を見た。
「ああ、そうかい、またアレか? 下女だな」
主人は呆れた顔をして言いながら、腹の膨らんだお美代をジロジロと眺めまわす。
「はい、あの、これはつまらない物ですが……」
お美代は上がり口に風呂敷包を置き、中身を出して遠慮がちに主人に差し出した。
「ああ、悪いね」
主人は一言言って菓子折りを受け取った。
「あ、それで……こちらが預かった手紙でございます」
お美代はすぐに懐から手紙を出し、それも主人に差し出した。
「ああ、わかった」
主人は手紙を受け取ったが、なにか言いたげな顔をしている。
「あの、それでは……私はこれにて失礼致します」
お美代はもう一度頭を下げて踵を返そうとした。
「あ、待ちなさい」
「はい」
だが、呼び止められて足を止めた。
「あんたは下女だろ?」