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女喰い
第6章 弥八郎
翌日になり、お美代は野良仕事をする為に納屋に入った。
クワを探していると、五作がやって来た。

「五作さん、どうしたの? 」

「お美代……」

五作は思い詰めたような表情をして目の前に歩いてくる。

「ん? 」

お美代はキョトンとした顔で五作を見上げた。

「お美代! 」

五作はお美代を抱き締めた。

「あ……、その」

「旦那様になにかされてるだろ? 」

昨日見かけた時、お美代は酷く憔悴した顔をしていた。
五作が疑うのは無理もない。

「……ううん」

お美代は無理矢理笑顔を作って首を横に振った。

「うそだ、おら、旦那様の事、段々嫌いになってきた、お菊の赤ん坊を捨てたし、お美代だって……こんな腹にされて」

五作は今まで人に悪意を抱いた事がなかったが、さすがに穏やかではいられなくなっていた。

「わたしは……仕方ないの、行くところもない、帰る家もないんだから」

お美代は運命に委ねるしかなく、他に選択枠はない。

「そんな……、でも……だからって、旦那様の好きにされていいのか? おらは違うと思う」

五作は自分なりに一生懸命考えていた。

「そうね、うん……、五作さんの言う事は正しいと思う、ただ、世の中って……正しい事ばかりじゃないんだよね、わたしはなるように任せる」

お美代は自分という物を捨てて生きようとしている。

「おら、お美代が好きだ、旦那様の子を孕んでも、やっぱりお美代が好きだ」

五作は思いを率直にぶつけ、お美代を抱き締めて離そうとしない。

「うん、ありがとう……」

お美代は涙が零れそうになってきた。
そこまで好いてくれて、どんなに嬉しいか……。
自分も五作の事が好きだと思ったが、それを今口にする事は出来ない。
だから、せめてものお返しに五作の背中を抱き締めた。

2人は無言で抱き合っていた。
叶わぬ事を嘆きながら、溢れ出す想いで胸がいっぱいになっていた。


その様子を密かに見守る者がいた。
弥八郎だ。
弥八郎は手紙を受け取りに来たのだが、お美代を探すうちにたまたま納屋を覗き込み、2人のやり取りを全部見ていた。





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