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女喰い
第6章 弥八郎
そうする間にも、母親の病状は悪化の一途を辿り、やがて弥八郎の事すらわからなくなっていた。
弥八郎はその時10才だった。
まだ親を必要とする年だ。
なのに、彦兵衛は母を冷たく見捨て、自分にも目をくれようとはしなかった。
その癖、己の欲を満たす為なら金に糸目を付けない。
弥八郎は彦兵衛に対して激しい憤りを覚え、心から見下して蔑んだ。

いっそ死んでくれたらどんなにいいか、そんな事まで思うようになっていた。
成長後は家を飛び出し、あちこち放浪しながら渡世人として生きてきた。
気まぐれに屋敷に戻って来たのは、母の身を案じていたからだ。
母親は一番奥の座敷にいる。
弥八郎は何年かぶりに母親と再会したが、母親は殺風景な座敷にポツンと座り込んでいた。
弥八郎が「お袋、俺だ、弥八郎だ」と声をかけると、ゆっくりと顔をあげて弥八郎を見た。
しかし、母が口にした言葉は「お前は誰だ、出て行け」だった。




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