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Q 強制受精で生まれる私
第12章 4.9度目
「あの~。もーしもぉ~し?」

 底抜けに軽い声で呼び掛けられて、思わず我に帰る。声の主は私の目の前で小馬鹿にしているかの様に、肌色の蝶をひらひらと羽ばたかせている。短いスカート、だらりと下がるリボン、くしゅくしゅのソックス…一目で女子高生だと分かる人物は、その出で立ちも声も何もかもが軽い存在だった。

「な、何でしょう…どちら様ですか?」

「えぇっ!! ひどーい!! 自分のとこのお客さん忘れるフツー? ほら、あたしだよあたし。前に病院で話したじゃん。」

 あたしあたし詐欺なんて聞いたことないし、こんなに親密に話しかけてくるっていうことは、病院で一度会ったことがあるのだろう。でも誰だか全然思い出せない。ただでさえ前の記憶が無いのに、今までの記憶まで失いかけているなんてぞっとする。

「うわぁ…誰だかさっぱり分かりませんって顔しちゃって。凄く失礼だと思うな、そういうの。まぁ、ピル貰いにきた所見られて萎える気持ちは分かるけどさ。」

「ピル…あっ。」

 思い出してから確かに無礼を働いてしまったなと後悔する。あの時…隠しカメラを仕掛けて先生の弱味を握ってやろうとした時に、病院に来ていた娘だ。確か街で援助交際をしていると先生が言っていた気がする。そんな娘が一体私に何の用があるのだろう。

「それで思い出すのは何か酷くない? 本当に失礼しちゃう。あーぁ、こんなことなら声なんかかけなきゃ良かった。」

「あ…その、ごめんなさい。いきなり話しかけられて、びっくりしちゃって…」

「そりゃあんな顔してボッーと空見上げてたら誰だって声かけるよ。ここが線路の上の橋だったら尚更ね。私がナンパ男だったら今頃ヨシヨシからのお持ち帰りだろうね。」

 女の子は気を利かせているつもりで、はっきりと私に死にそうな顔をしていたと告げる。少し話した程度の他人だとしても、思わず声をかけてしまう程に酷い顔をしていたのだろう。出会った時からうるさい娘だなとは思ってたけど、今はその元気さが眩しく見えてしょうがない。
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