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Q 強制受精で生まれる私
第13章 5.0度目
「待って!! 私のことを知っているの!?」

「当たり前だろ。お前みたいな腐れ女、忘れる奴がいるかよ。」

「私、記憶喪失なの!! 記憶を失くす前の自分が分からなくって困っているの!!」

「…チッ。ふざけんな。つくならもうちょっとマシな嘘をつけよ。」

「嘘じゃない!! お願い信じて!! 何でもいいの!! 本当の私はどんな人だったのか教えてほしー」

 突如、コォンという耳触りのいい衝突音が私達を包み込む。待ち焦がれていたエアシューターが長い旅路から帰ってきて、タイミング悪く私達の会話を妨害する。男は筒の中からお釣りを取り出し、ロックが解除されたドアを開けて私を冷ややかな眼差しで射抜く。

「お前とはもう赤の他人。延長は無し。契約はここで終わりだ…リピートなんぞする訳ねぇ。さっさと失せろ。」

 鋭く睨む男の眼に、私の姿は映っていなかった。無にわざわざ話しかけてくる人間はこの世にはいない。もうこの男は何も喋ることはないだろうと理解した私は、お別れの言葉もせずに部屋から出る。いないもの扱いするくせに男は一緒に部屋を出ようとはせず、ドアに寄りかかったまま私が消え去るのを待ち続けている。

 ホテルから出る前に、せめてマオちゃんだけでもお別れの挨拶をしようと部屋に向かうも、色に溢れる盛大な喘ぎ声が漏れるドアの前でピタリと立ち止まる。生という名の、相容れることはない違う世界の人達に会っても空しいだけだと悟った私は、結局亡霊の様に何もせずにホテルを後にした。


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