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Q 強制受精で生まれる私
第14章 5...? 度目
「もしできちゃったら、その時はサポートお願いね。あ、お金のことなら心配しなくていいよ。次の人大手の製薬会社に勤めているんだから、金は持ってるだろうし。 それじゃ。」

 外道の靴音がどんどん遠ざかっていく。終いには聴こえなくなり微かな荒い呼吸音だけが診察室に響き渡る。音の主はよろよろと机に向かいしばらく腕を組んで伏していたかと思うと、突然拳で机を何度も力強く殴打する。

 「くそ…ちくしょう…」と声を漏らしながら無機質な机に八つ当たりする先生に、私はいてもたってもいられず背後から優しく抱きつく。

 この世界では幽霊扱いの私が抱きついた所で当然反応が返ってくるはずもなく、先生はひたすら己を呪い続けて咽び泣く。私の人生も、プライドも、何もかもを崩壊させたこのレイプ魔のことを、どうして可哀想と思って慰めたくなったのか…咄嗟に出た行動に驚きを覚えつつも、自身の行動から先生への嫌悪感はとうに失せていることを実感する。

 もうこの人に対する恐怖心や恨み辛みは私の中には無い。それらで満たされていた私という器の中は今やもぬけの殻と化しており、実体を保つために別の何かで満たそうとしている。こうして先生を抱き締めているとある感情が流れ込んでくるのが分かるのだけれど、その感情が何という物なのかは見当がつかなかった。

 相手を慈しんで抱擁しているのだから、世間一般的にこの感情は愛と名乗るのが妥当なのだろう。だけど何者かがそれでは無いと、早急に結論付けようとする私に待ったをかける。

 愛では無いと言うのなら、一体なんだと言うのか。
 考えれば考える程分からなくなってくる。

 …思考がぼやけていく。
 間もなく夢から醒めるのだろう。

 世界が完全な白に染まる前に、最後に残った感情は嫉妬だった。

 あんな女なんかじゃなくて、私を見て欲しいという嫉妬…

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