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Q 強制受精で生まれる私
第15章 6.0 度目
「ほと…ぎ…? おいしっかりしろ、ほとぎ!! ほとぎぃ!!」

 真っ青な顔をして元カノの錯覚を抱きながらけたたましく叫ぶものだから、私は咄嗟に耳を塞いで顔をしかめる。そんなに叫んで体を揺らさなくても、仮にも医者なんだから脈位測ればいいのに。ただの自業自得な上に打ち所悪くて気絶してるだけなのに、先生はまるで取り返しの付かないことをしてしまったかのように、別の女の名を泣き叫びながら必死に体を揺さぶる。

 紛い物でも奇跡は奇跡なのか、先生の声が眠りこける私に届いたらしく、人形は「うぅ…」というくぐもった第一声と共に、その命を稼働し始める。ロマンの欠片もない目覚めに絶句する先生と、目蓋を虚ろに開けて、初めての人間を間近にした私は、しばし互いの視線を交わす。

 そして…

「ほとぎ…ほとぎ!! 良かった…本当に無事でよかー」

「だれ…あなた? ここは…どこ…」

 今時三流作家ですら書きそうにない、ありきたりすぎる記憶喪失者の台詞を吐いた私は、まだ眠り足りぬと言わんばかりに夢の世界に戻ってしまう。残された先生はしばし硬直した後、わなわなと震える両手で頭を掻き乱し、亡者の如くあぁ、あぁと悲痛な声を喚き散らし始める。

「俺が!! おれが!! あの時…止めていれば!! あの時!! 別れを受け入れずに!! 無理矢理にでも留めていれば!! ほとぎは…ほとぎはぁ!!」

 幾度となくあぁあぁと痛々しい嗚咽を繰り返しながら、先生はやり場のない怒りを天に向けて吠える。頭上には事の一部始終を見つめてきたであろう、無機質な白一色の空と埃まみれの傘を被る月が、冷ややかな視線で先生達を見下ろしている。

 私という命の誕生は不幸なことに誰にも祝福されることなく、身勝手な悔恨の中で迎え入れられた呪われし子だと知り、さすがの私も胸の奥がざわつき始める。
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