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Q 強制受精で生まれる私
第15章 6.0 度目
「…はっ。はははっ…そうだよ。俺のこと憶えていないからって、それがなんだ…そんなの、思い出させればいいだけじゃないか…誰にも渡さない…渡すもんか…今度こそ、離さない。ほとぎは、俺のものなんだ。俺の…もの…」

 そんな私を気にかけるはずもなく、先生はぶつくさと何か言いながら眠る私を担ぎ上げて、視点を泳がせながらふらふらとドアの方へと消えていった。空虚な夢にひとり取り残された私は、長かったこの夢もこれで終わりか、とただ呆然と立ち尽くす。

 こうして私、浜園 穂伽の一生が始まった。

 お世辞にも喜ばしいものではなかったけど、それでも私はこの世に生まれたことを嬉しく思う。なんせ私は幸運にも生涯を共にする運命の人は勿論、成すべき天命、幸せの意味さえも最初から与えられていたのだ。これ以上の幸福が他にあるだろうか。

 私達は間もなく、その幸せの全てを手にしようとしている。
 そのためにも、邪魔者は排除しなきゃ。
 こうしちゃいられない。早いとここの夢から醒めないと。

 夢から醒めるには…と思いたった私はおもむろに頬を摘まみ、横に引っ張ってみる。

 テーブルに鎮座するお化粧用と思われる卓上鏡に、私の情けない顔が写し出される。そのあまりの可笑しさに私はふふっと顔をほころばせた。

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