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Q 強制受精で生まれる私
第15章 6.0 度目
「いいお湯でした。先生も入れば良かったのに…」

「…お前…その下着…」

「どうしました? そんな怖い顔をして。先生の趣味なんでしょう? あのヨレヨレの下着の山、 思ってたよりも相当お盛んだったんですね。」

「…脱げ。今すぐ、それを脱げ。それはお前が着ていい物じゃない。」

「…へぇ。元カノのですか、これ。プレゼントですか? お相手はあまりお気に召さなかったって感じですね。」

 先生は椅子に腰をかけたまま押し黙り、私の推測に答えない。けれどぎりりと歯ぎしりする時点でもうバレバレだ。ここに来たばかりの時は一体何が楽しくて私を苛立たせるのだろうと思っていたけど、逆の立場になったら先生の愉悦がよく分かる。

 私だけにフォーカスしている憎悪の感情…病み付きになる。先生はこれを味わっていたんだ。この悦びが理解できなかった当時の自分が惜しくて仕方ない。

「なんのつもりだ? それで俺を誘惑しようって腹か…はっ!! さすがは根っからの痴女だな。そんなに食い足りないか。悪食なのも大概にしろよ。」

「どうしました? 急に悪態なんか付いて珍しい…見ず知らずの女に手を出す外道のくせに、下着は清楚なのが好きなんですね。望みは叶いましたか? 手づから純潔な乙女を汚しに汚して、堕ちた女が好みな格好してくれて。」

 先生は何か言いたげにキッとにらみ、下がりっぱなしの口角をくわっと開け広げるも、自制を聞かせるように口元をわなわなとさせながら眼を空に泳がせる。まるで言い返したら負けだとでも言い聞かせるように、荒い深呼吸を何度も繰り返し、デスクに乗せた拳の圧力を強めていく。

 一体何を言い聞かせているのだろう。

 相手にするな。
 一刻も早くいなくなれ。
 やはりあの時首を絞めておけば。

 先生の頭の中を想像の付く限りに思い浮かべるも、そのどれもが私への恨みばかりだった。腐りきったエゴをひた隠しにする程に演技力に富んでいた先生の脳は、今や想い人と瓜二つの女に侵食されつつあった。予期せぬ異物に悶え苦しむその姿が堪らなく愛おしくて、その全てを埋め付くしたくなる。脳だけじゃない。心も体も。何もかも。
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