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Q 強制受精で生まれる私
第15章 6.0 度目
「出ていけ…今すぐ服を着て、ここから、出ていけ。治療は終わったと言ったはずだ。お前も俺も、もうお互いに用は無い。」

「終わった? あれでですか? 先生、私のお腹の中にはまだ誰もいませんよ。 私はまだ妊娠を希望しています。空っぽなんて嫌です。診療拒否なんて医者がしてはいけないこと位、先生ならご存知のはずですけど。」

「はっ!! それで俺を手玉に取ったつもりか。診療拒否が違法に該当するかの基準を知っているのか? 今は勤務時間外の上、緊急な対応が必要な物でもない。何も知らないくせによくもまぁそんなことを言えたものだ。」

「…患者と医師の関係はどうなるんです?」

 食いかかってきた先生が押し黙り、辺りに張りつめた沈黙が漂う。あんな行動に出た先生が今更違法ごときを恐れるとは思えず、何か別のことが引っ掛かっているのか一蹴することすらできずにいる。

 私のことなんか憎悪の感情以外何物も抱いていないはずなのに、この人の中には別の感情が未だに粘り付いているのが、重力に負けて頭を深く垂らす姿から伺える。何かに悶え苦しむ先生を見ていると込み上げてくる物があり、自然と口角が横に緩んでいく。

「…好きにしろ。警察でもどこへでも行けばいい。俺がやってきたことは全て無駄だったんだ。もう、あいつは…ほとぎは戻ってこない。何もかもどうでもいい。知ったことか。」

「安心して下さい。通報するなんてそんな間抜けなことしませんから。そんな悲観面してまで意地を張らなくていいんですよ。人生、諦めなければ何度だってやり直せるんですから。私みたいにね。」

 悲哀と憎悪渦巻く先生の面持ちは刻一刻と変化し続け、そこに平常心なんてものはもはや存在していなかった。少しつつくだけでカッと火が付きすぐに鎮火する。そのまま燻り続けては燃料が投下されると、また勢いよく燃え上がる。燃料さえ与えればいくらでも燃え続ける炎に当てられ、身体の芯まで熱を帯び始める。

 これ以上、我慢なんてできっこない。
 火遊びだけじゃ物足りない。焦がして欲しいのだ。

 この身を跡形もなく。
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