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第3章 1.5度目

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　昨日の予告通り先生は8時丁度に部屋のベルを鳴らした。覗き穴からはこれまた昨日と変わらず気味が悪い程爽やかな笑顔で、捕虜が自ら出てくるのを待っていた。

　犯罪者を前にして出る道理等無いのだが、このまま居すわられるのは不快極まりないので、私は身構えてドアを開放した。どうせ開院時間が過ぎようと、私を逃がすつもりなど微塵もないだろう。

｢おはようございます、浜園さん。昨晩はよく寝られましたか。それにしても清々しい、いい天気ですね。｣

　よく寝られたか、なんてよくもそんな台詞が容易く吐けるなと思いながら私はしかめっ面で先生を睨み付ける。先生の言う通り空には雲一つ無い快晴であり、昨日は暗くて見えなかった辺りの景色が鮮明に映し出されていた。

　別荘の周りには畑か田んぼしかなく、建物らしき面影は砂漠のオアシスみたいに遥か彼方に見えるだけだった。実在するのか蜃気楼なのか疑わしい程の距離に私の辞書から希望、脱走という文字が消えていく。先生の笑顔と共に私を照らす太陽や青い空までもが、地獄への門出を祝福しているかの様だった。

｢あなたと話すことなんかありません。昨日みたいにさっさと私を好きにすればいいじゃないですか。｣

　朝から自暴自棄になりつつある私を見て、先生は少し困った様な表情をしながら頭を掻く。ばつが悪いのか視点をあちこち泳がせた後私を真っ直ぐ見つめ直し、それでは行きましょうかと言って車の助手席へ私を誘う。

　虚ろな視線で立ち尽くしていた私だが、大きく深呼吸をしてから獣の巣穴へ迎え入れる機械の馬車に足を踏み入れた。シートベルトを締め、姿勢を正す私を見て先生は僅かに安堵の表情を浮かべながら車を走らせた。