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Q 強制受精で生まれる私
第6章 2.5度目
「…いい案ですね、それ。先生の言う通りにさせて頂きます。」

「えぇ。浜園さん、この辺のことはよく知らないでしょうし、折角の休みですから家の中にいないで外に出た方がいいですよ。」

 そう言い終わると先生はそうだ、と突然ポケットの中を漁り始める。少しシワになっている茶封筒を出して、これどうぞ、と私に差し出す。中には一万円札が、しかも二枚入っていた。

「昨日働いた分のお給料です。初めてなのにいい働きぶりでしたので、少しおまけしておきました。丁度浜園さんのアパートがコース途中なので渡そうと思っていたんですが、出かける前に渡せてよかったです。見た目と違ってさびれた街ですが、それで美味しい物でも食べてきて下さい。」

「あ、ありがとうございます…」

 外出も許可してくれて、お金も渡してくれる拉致監禁者がこの人以外この世にいるだろうか。これではまるで逃げてくださいと言わんばかりだ…それとも、ここまでしても大丈夫という絶対的な自信があるのだろうか?

「さて、と。私はランニングの途中なので、これで失礼します。また明日、いつもの時間に迎えにきますので、それまでには準備を済ませておいて下さい。」

 それじゃ、と言うと先生は私とは反対方向…アパートの方へと走り去っていく。どこかに身を隠して監視するのではと思い、その後ろ姿を見つめ続けるが、徐々にその背中は小さくなり、陽炎の中に消えていった。それを見届けた後、私は街の方へ向き直り、歩き出す。

 そうだ。何も心配することなんて…ない。
 先生がどういう策略を張り巡らせていようと、私がやることは変わらない。
 警察に行って。今までされてきたこと、全てを打ち明けて。先生は逮捕されて。そして私は…

 私は…どこか行く宛があるだろうか…

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