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Q 強制受精で生まれる私
第7章 2.9度目
「…当病院の受付をしております、浜園と申します。」
「ほ、ホント? 本当にここの人? だって来た時は先生以外誰もいなかったし…」
この娘は何にそんなに怯えているのだろうか? 私みたいにこの男に周りに知られてはまずい弱みでも握られているのだろうか。
「そう思われるのも無理はありません。なにせ今日彼女はお休みのはずでしたから…何かの間違いで来てしまっただけの様です。その点はご心配には及びませんよ。」
「…驚かせてしまい、大変申し訳ありませんでした。」
何が『休み』だ。私だけじゃなくこの病院自体が休みだって言ってたじゃないと静かに憤る。電気はついてるし、泥棒かと思って入ってみれば普通に診察してるし…ここの仕事なんか死んでもしたくないけど、訳を聞きたいのはこっちの方だ。
「…なーんだ。もぉ、驚かせないでよぉ。ビックリしたー。」
私達二人がかりの説得によりようやく緊張の糸が途切れたのか、女の子はへなへなと丸いパイプ椅子に座り込む。今時の若者の流行りの格好なのか、同性の私が見ても随分とだらしない格好をしているが、パッと見先生と一事あったかの様な服の乱れは見られない。私が来なかったらどうなってたかは分からないけど、少なくともここに入るまでは普通の診察をしていたようだ。
「えっと、浜園さんだっけ? いつからここで働いてんの? 」
「えっ? お、一昨日からですけど…」
「あ、そーなんだ。いや私何回かここに通ってるんだけど、始めて見る顔だからさ。最初誰この人って思っちゃたよ。」
この娘もこんな辺ぴなところにある病院の常連だなんて、昨日のおばさんといいここは余程名の知れた病院なのだろう。皆この男の仮そめの姿に騙されているのだろうけど、昨日の女性への診察を見るに腕だけは確かに思えた。そうじゃなかったら、わざわざ街から離れたこんな病院に来るはずがない。
そう思いながら気さくに話しかけてくる女の子と話していると、カンッという鈍い音が室内に響き渡る。私達は音がする方へ振り返ると、先生が何かの錠剤の箱を引き出しから取り出し、机に置いて女の子に差し出す。右手に握られているペンが、その先端を机の上に押し付けられている。どうやら無駄なよた話を避けるために、私達の注意を引き付けたかったようだ。