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Q 強制受精で生まれる私
第7章 2.9度目
 その時、不意にドアの向こうから足音が聞こえてくる。先生が戻ってきたのか足音は徐々に大きくなっていく。私は慌てて箱から出したタンポン一個をズボンのポケットにしまい、箱は放り投げる形で机の上に戻す。

 箱が置かれるカタンという音と共にドアが開き先生が入ってくる。カラカラというドアが開く軽い音の方が大きいから、バレることはないはずだ。

「いやー、お待たせしました。いつの時代も女子高生は話が長いですね。あれがそのまま成長して主婦の井戸端会議になるのでしょうね。」

 つまらない冗談を言いながら先生はドアをゆっくりと閉める。鍵をかけるつもりかと思ったけど、自分の居城にそんなことする必要もないのか、そのまま机に置きっぱなしの物に気付き、中身も確認せずに引き出しに戻す。

「あ、そうだ。彼女から頂いたばかりですが、これどうぞ。」

 そう言って先生はいきなり私の手を取り、手のひらに冷たくて硬い何かをチャリチャリと鳴らして置く。突然のことに鳥肌が立ち、手を振り払って中身を確認すると、さっきの娘が薬の代金として払った900円が手のひらに置かれている。

「一体何のつもりですか? 脈絡無さすぎて意図が読めないんですけど。」

「いやなに。無断休日出勤分ですよ。私営の病院だろうと来てしまった従業員には、給料を支払う。経営者ならば当然のことです。」

 先生はいつも通り爽やかな笑顔でそう言うが、その言葉には怒りという名の毒が含まれている。にこにこと微笑むその笑顔には、『さっさとしまえ。でないと先に進めないだろ。』という気迫を感じる。

 私はこんな物いりませんと受け取りを拒否すると、先生は私の手を取り無理矢理ポケットの中に入れてきて、900円を押し込む。チャリンというこんな状況じゃなければ何とも心踊る音がポケットの中で響き渡る。くすねたタンポンが入ってる方のポケットじゃなくて、本当に良かった。
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