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Q 強制受精で生まれる私
第8章 3.0度目
「うーん、いい映像ですね。今回の治療は大成功ですし、貴重な資料になるかもしれません。これは預からせて頂きます。あ、お金なら後で払いますから心配いりませんよ。」

「やだ。返して!! 返してよぉ!!」

 必死に懇願する私の口を先生は突然の接吻で塞ぐ。くぐもった唸り声を上げて抵抗するも、貪る様な執拗なキスで無理矢理押さえつけられてしまう。たっぷりと堪能された後、満足そうに糸を引きながら先生は唇をゆっくりと離す。その顔はエロスを含んだ勝者の笑みで溢れている。

「…私は先に帰ります。鍵はポストに入れておいてもいいですし、このままここに泊まっても構いませんよ。この病院にもシャワーが付いてますから、汗流しといた方がいいですよ。夜は冷えますから。」

 絶望に打ちひしがれて反応を返せない私に、先生は再度軽めのお別れのキスをする。ふわふわのタオルケットを一枚私に被せ、名残惜しそうに優しく別れを告げる。

「おやすみなさい。また明日。」

 しんと静まる無機質な部屋の中に私一人だけ取り残される。様々な理由でかいた汗が身体を容赦なく冷やしていき、震えが止まらなくなってきてようやく私はタオルケットにくるまる。

 終わった。終わってしまったんだ。
 最悪の形で。何もかも。

 もう救いの手は来ないだろう。このままあの男に孕まされる未来が今日確定したんだ。そう思えば思うほど、何もかもが暗い絶望にしか見えなくなってくる。目に前には色で溢れている世界が広がっているはずなのに、私は真っ黒な闇の中に落ちていく。

 私はタオルケットで全身を覆い、その中で泣きじゃくった。温もりなんてとうに失せた私を暖めてくれたのはタオルだけじゃなく、不幸にも先生がくれた『また明日』という言葉だった。

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