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Q 強制受精で生まれる私
第9章 3.5度目
「いいですか。落ち着いてよく聞いて下さい。確かに癌…子宮頸癌をわずらっていることは前回の診断の結果から間違いありません。ですが発覚したタイミングが早くて良かったです。まだC1N2…あぁ、つまり初期段階ですので命に別状はありません。」

「で、でも癌なんですよね? いずれは酷くなって…私死ぬんですよね!?」

「ご安心下さい。初期の段階であれば大きな手術をせずとも簡単な治療で治りますし、正直に申しますと経過観察レベルの病状です。国内ではC1N2ステージでは原則として治療はしないのですが…」

 そう語尾を濁して先生は押し黙ってしまう。一方の女性は忍び寄る死の匂いに怯えて顔が文字通り真っ青だった。無理もないと思う。いくら大したことないと言われても、相手は癌という重病だ。重苦しい空気が蔓延する中、この男が申告したことが嘘かまことなのかを、たった数センチの隙間から固唾を飲んで見守る。

「…ご結婚されるんですか? 以前来たときはつけていませんでしたよね、その指輪。」

 「えっ?」と女性と同じタイミングで声が出てしまい慌てて口を塞ぐ。恐る恐る部屋の方を見るが、こちらの存在には気づいていないようだった。その時に女性の指先からキラリと光り放つ物を視界の端に捉える。凝視せずとも分かるそれは、紛れもない結婚指輪と呼ばれる物だ。

「はい…この前プロポーズされて決まりました。」

「そうですか。お相手はこの前仰ってた彼氏さんですね?」

「はい。長いこと付き合っていたんですけど、彼から切り出してくれたんです。今まで辛い想いをさせたまま待たせて、ごめんって。夫婦として一緒にいてくれないかって。」

「それはそれは…おめでとうございます。将来が不安だっただけにさぞ嬉しかったでしょう?」

 目の前の女とは縁もゆかりも無い医者風情の男は患者の気持ちを洗い出すように、いつになく優しい声で問を投げ掛ける。その姿は私達が知る極々一般的な医者にも思えるし、定例的なカウンセラーにも思える。私には一切見せないその立ち振る舞いに、どういう訳か心がざわつく感じを覚える。

 何なのだろう、この胸騒ぎは。
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