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Q 強制受精で生まれる私
第9章 3.5度目
「正直言うと諦めていたんです、私。もう結婚するには遅いだろう…子供を作る年齢じゃないよねって…私、あんなに人を好きになったのも…人に好かれたのも初めてで…この人の子供だったら…産んでもいいかな…て…」

 一つ一つ溢れ出てくる想いが抱えきれず、涙声と共にこぼれ落ちてくる。彼女の救いを求める眼差しを先生は優しく、かつ真剣に受け止めていく。

 しばしの沈黙が続いた後、先生は机に向き直ってパソコンを忙しなく動かし始める。女性は胸に溜まっていた物を吐き出せてスッキリしたのか落ち着きを取り戻していた。カタカタ。ガーガーという音が鳴り止むと先生はプリンターから二枚の書類を取り出し女性に手渡す。

「申し上げにくいのですが、当院はご覧の通り小さい病院のため本格的な医療機器がありません。ですので他の病院まで足を運んで頂ければと思います。私の知り合いで腕利きの先生がいますので、この推薦状をその方にお渡し下さい。地図はもう一枚の紙に書いてます。受付の方に推薦状だけ見せれば問診無しで通してくれますし、診察料もいくらかまけて頂けると思いますよ。」

「い、いいんですか? さっき私の病状では治療に当たれないって…」

「医学界では原則としてそうですが…その前に我々は医者という医療に携わる人間です。医療の大原則は早期発見早期治療。辛い苦しいと言う患者を放っておくことなど論外です…幸せな家庭を築くために結婚を決めたのでしょう?」

 あれだけ涙を流したにも関わらず、またも涙腺を緩ませて女性はありがとうございますと何度も頭を下げる。穏やかな笑顔に少し照れ臭そうな表情が垣間見える先生の顔を、私は凝視することができなかった。

 理由は分からない。分からないけど、この男のそんな表情は見たくないという薄暗い気持ちが私の中で燻っているのが分かる。目の前にいるのは誰もが認める医者のお手本のはずなのに、私はそれに極度の嫌悪感を抱いてしまう。
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