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Q 強制受精で生まれる私
第9章 3.5度目
「旦那さんにも必ず病院で検査を受けるようにお伝え下さい。子宮頸癌はHPV…ヒトパピローマウィルスによって引き起こされる性病です。旦那さんがウィルスを保有していて感染させてしまった可能性は充分にあり得ます。言いづらいとは思いますが、これ以上悪化させないためにもよく話し合って下さい。」

 どうやら診察はこれで終わりらしい。結局医者としての姿勢を貫いただけで、何事もなく終了してしまった。私はドアをゆっくりと閉めて受付席に戻り、何事も無かったかの様に振る舞う。

 数分もしない内に女性が五体満足…ではないけど、希望に充ち溢れた様な顔立ちで診察室から出てきた。その表情を目で一瞬捉えた後、私は彼女の顔を見ないように必死に目を反らす。そうでないとこの薄暗い何かが弾けそうな気がしたから。

 診察料…といっても相談だけだからタダで、という先生が書いた紙を受け取り、処理していると女性の方から「あのっ。」と声をかけてくる。

「…どうされましたか?」

「あ、あのっ。いきなりこんなこと言うのも変ですが…その、ありがとうございました!!」

「えっ?」

「貴方がいなかったら私、あの時怖くて検査受けていなかったと思います。貴方が手を握ってくれていたから、勇気を振り絞れたんです。本当にありがとうございました。」

 一瞬何のことかと記憶をたどり、あの時先生にはめられた検査のことだと思い出す。私は事情を知らないふりをして、「いえ、お構い無く。」と簡単な挨拶だけ返して彼女の後ろ姿を見送る。

 足取り軽く夕暮れの彼方に消えていくその後ろ姿を見つめながら、看護婦でも無い私はありがとうと感謝されたことによる、ほんの些細な悦びに浸っていた。

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