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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 紅色の絨毯を踏みしめ部屋を出てゆく華奢な背中を見送って、藤堂は眉間に皺を寄せた。

 信頼を寄せている己の部下を、そして、自らの幼馴染を。人質か何かのように扱わなければならない。

 己で決めて実行したことの、思ってもみなかった代償であった。

 彼らを、『御館様』の、そして狂女の子たる、あの化け物たちを支配下に置いておくために、藤堂と『御館様』は策を弄し、奔走した。その蕾は今正に花を咲かせ、彼らを上手く使うための機構が整いつつある。
 つつある、と云うだけで、完璧ではない。それこそ突然仏蘭西に行ってくるなどと云ってそのままほんとうに向かってしまうこともあれば、つい先日まではいたはずなのにいつの間にかいなくなってしまっていることもある。

 その点を考えれば、大人しく塔の天辺で暮らしている少女は、あまりに扱いやすい。

 露崎明莉という女は、その未完成の機構の、ちいさなちいさな、螺子のひとつ。
 ちいさな、とは云えど、本人に自覚がどれほどあるのかはわからぬが、極めて重要な螺子だった。

 己が逆らえば、露崎がどのような目に合うかわからない。

 その恐れが、辛うじて、アレをこちらの意図に沿わせていると云っても過言ではない。常人にはその行動原理が全くもって理解できぬあの化け物たちの中で、今回使おうと目論んだ少女はまだしもわかりやすい部類だった。

 異常なまでに情が過多で、自らの中に位置づけた相手は守り切ろうとする、頭に血がのぼりやすくて、のぼったままなかなか降りてこず、むしろのぼり放しで死んでしまうような娘。その評価が間違っているとは思わない。
 思わないから、こうして、たまたま、ほんとうにたまたま其処にいた、あの子の懐に潜り込んで、そのまま身内になれそうな女を送り込んだ。
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